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すきやばし次郎のドキュメント映画が寿司の本物志向を加速させた

前回の記事では海外における90年代以降の寿司ブームの拡大と新しい流れ「コンテンポラリージャパニーズ」の到来について書きました。その後21世紀に入り寿司文化は新たな局面を迎えます。

賛否両論、寿司ポリス

賛否両論、寿司ポリス
寿司ブームが定着した事によりあらゆるところでSUSHIの文字が見られるようになり、世界中の人達が手軽に寿司を食べられるようになりました。しかしきちんとした技術、食材の知識、衛生観念が整わないまま安易に寿司レストランをオープンする店が後を絶たない上、正統派の寿司とはかけ離れ、味も見た目もなんでもありになり、果たしてそれらも寿司と呼んでいいのかという議論が巻き起こりました。間違った食文化や知識・マナーを植え付け、食中毒や産地偽装などにも結びつきかねないからです。

これを問題視した農林水産省が2006年、きちんとした日本食を出しているお店にお墨付きを与え、日本の正しい食文化の普及を図る認証制度の導入に乗り出しました。経営者や料理人の調理や衛生に関する知識、店舗の雰囲気・接客・メニュー、実際の調理・味付け・盛り付け、日本食に関する情報発信、などを調査し総合的に基準に満たしているかどうか判断するこの制度ですが、世界各地で賛否両論となりました。

アメリカの日本食レストランの9割以上は日系人以外の経営であるため、また「現地の好みに適応した日本食もある」「政府の判断を押しつけるべきではない」といった意見が沸き起こり、アメリカの大手新聞社にも「寿司ポリス」と揶揄されます。

また「日本食とは何か」と定義することの難しさも加わり、結局認定制度は立ち消えとなりました。現在はそれに代わって、日本産食材を積極的に使用する海外の飲食店や小売店を認定する「海外における日本産食材サポーター店の認定」、日本料理の知識及び調理技能が一定のレベルに達した海外の料理人を認定する「海外における日本料理の調理技能認定制度」が導入されています。

いよいよ時代は本物の寿司を求める

いよいよ時代は本物の寿司を求める
2011年に公開されたドキュメンタリー映画「Jiro dreams of sushi/二郎は鮨の夢を見る」は銀座の名店「すきやばし次郎」の店主であり、5年連続で3つ星を得たミシュラン史上最高齢の寿司職人、小野二郎氏に密着取材した映画です。

アメリカ人の映画監督デヴィッド・ゲルブによる美しい映像と音楽にのせて語られる92歳現役寿司職人の小野氏の生き方は、想像を遥かに超える寿司の持つ奥深さ、一流の職人になるまでの長い道のりを訴えかけます。

海外の人達にインパクトを与えたこの映画の影響もあり、訪日観光客の江戸前寿司、特におまかせオンリーの高級店に対する関心は過去最大になっています。また、日本の高級寿司店が海外に出店し、日本と比べても遜色のないクオリティの味・サービス・雰囲気を提供し次々と成功を収めています。

なみなみと注いだ醤油に握りをひたして食べる外国人客を見て、どうせ魚の味も出汁の味も分からないのだ、と嘆いていたのも今は昔。本物の寿司が浸透するにつれ店に通うお客さんの寿司に関する知識もマナーも着実に向上しています。

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録
2013年には「和食、日本人の伝統的な食文化」が文化遺産に登録されました。本来、世界遺産の登録は「危機に瀕している文化」を保護するのが目的であり、和食が私達日本人の生活の中で失われつつある文化であるが故に申請が認められたのです。

そのような状況とは裏腹に、海外における和食の人気は留まることをしりません。また、和食が文化遺産に登録された2013年、訪日外国人旅行者数が初めて1,000万人を突破し、その後も急激に増加し2016年には2,400万人にも達しました。日本に来る観光客の目的の1つは紛れもなく食文化の体験です。

私達日本人が改めて認識すべきなのは、和食が日本人だけのものではないという事、そして食文化とは時代と共に常に変化していくという事ではないでしょうか。その上で技術と知識を継承し本物を守りつつ、柔軟に対応していく必要があるのではないかと思います。
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